神鳥の卵 第29話


屋敷の扉をくぐると、小さな子供がこちらに駆けてくる姿が見え、思わず口元が緩んだ。もう少し早く走れないのか?とか、転ぶんじゃないかな?とか思うことはあるけれど、頑張って走る姿も可愛いし、帰ってきたことがそんなに嬉しいのかと思うと嬉しいし、自然と顔が綻ぶ。
ここにいる子供は一人だけだ。
あの後ルルーシュは6歳ぐらいまで成長し、こうして自由に走り回れるようになっていた。背中の羽も屋敷の中では隠していないため、動きに合わせてふわふわと揺れていた。
スザクが帰ってきたことが嬉しくて反射的に駆け出していたが、スザクの緩んだ顔を見て、自分の行動にハッとなり、とたんにすました顔でてくてくと歩き出した。そんな姿もかわいくて、自然と笑みが深くなった。
そんな二人を見ていた人物は、少々冷めた目で二人を見ていた。これがたまにの光景ならこの反応も仕方ないと思いはするが、残念ながら毎日だ。ルルーシュはナナリーがいれば真っ先にナナリーに駆け寄るが、その後ろにいるこの男は毎日毎日ニマニマと笑いながらルルーシュが迎えるのを見ていて、それが無性に腹立たしい。そう思ったC.C.は、カツカツと歩みを早め、ひょいっとルルーシュを抱えあげて、スタスタと扉に向かった。それを見ていたスザクは不愉快げに表情を歪めた。

「おい、おろせC.C.」

もう抱えられなくても歩けると騒ぐが、スザクが喜ぶ姿を見るのは癇に障るから下ろす気などない。

「それより、ほら、おかえりなさい、だろう?」

そう言えば、ルルーシュは抵抗をやめ、スザクの方に向く。

「おかえり、すざく」

ナナリーに向けるような、優しく甘ったるい声と笑みで言えば、スザクの機嫌など一発で治った。

「ただいま!ルルーシュ」

元気に答えれば、ルルーシュは嬉しそうに「みんなぶじだな。よかった」と口にはせずに笑った。言葉をしゃべるようになったので、会話は主に口頭で行われるが、いまも心の声はこうして漏れ聞こえている。

「ところで、さよことナナリーはどうした?」

そわそわと扉を伺いながら、ナナリーが入ってこないのはなぜだとルルーシュが聞いてきた。「おまえは ナナリーの ごえい だろう!」と心の声で文句を言う。笑顔のスザクがいるから、ナナリーは無事ですぐ来るとは思うが、そもそも一人でスザクが戻って来ること事態が普通ではないのだ。

「すぐ来るよ。ちょっとあってね」
「ちょっと?なにがあった!」

スザクは落ち着いて笑うが「ナナリーに なにかあったのか!?」と内心騒ぎ出したルルーシュを制してスザクは言った。

「僕たちをつけてきた車がいたんだ」
「ああ、今日は何機かドローンが飛んでいたらしいが、それか?」

C.C.が尋ねると、スザクは頷いた。
当然、全部魔王も知っている。

「屋敷の前に車をつけた時、またドローンが飛んでることに気がついたんだけど」
「ああ、しってる」
「狙っているのがナナリーなのか僕なのかって話になって、時間をおいて屋敷に入ることになったんだ。で、最初は僕。そろそろナナリーを迎えに行くよ」

時計を見ると予定の時間になりかけていたので、スザクは慌てて扉に向かった。なら俺はドローンの動向を詳しく見ようと、ルルーシュはC.C.に抱えられてモニターのある場所へ移動した。
結論から言えば、狙いはやはりスザクだった。
スザクが屋敷に入った後、ナナリーを乗せた車はその場を離れ敷地内を走ったが、ドローンは車を無視し、屋敷の方を探るように動いていた。と言ってもかなり遠い場所だしジャミングも働いているから、ある程度の操作はできたとしてもろくな画像など撮れないが。
それにドローンはいつでも支配下におけるため、そこまで問題ではない。
今の問題は、侵入者の方だ。
スザクたちが門を抜けるタイミングで敷地内に侵入した者がいた。
かなり腕の立つ相手だ。
ナナリーの乗る車が屋敷内の果樹園などで作った死角に入っったとき、カレンはバイクから車に移動し咲世子は車から降りていた。遠くからドローンの様子をうかがっていた咲世子は、すぐに侵入者に気づき、侵入者の潜む門の方へと移動していた。

『咲世子、深追いはするな』

突然の静止命令に、咲世子は足を止めた。
機械音声だが、これはルルーシュからの指示だとすぐわかった。

『侵入者のことはわかっている。そして、相手は君の動きに気づき、すでに移動を始めた』

危険だと察知したらからすぐに引き上げた。
動きにも無駄がない。かなりの手練だ。
咲世子は自分の動きを敵に悟られたことを恥じたのと同時に、ルルーシュが全て把握していたことに安堵した。かなり近くまで敵は侵入していた。ルルーシュのこの様子なら、相手がどう動いたのか、何をしていたのかも把握しているだろう。
スザクが先に屋敷に戻ったのはルルーシュの安全確保のため。ナナリーを乗せたままカレンが走っているのは、いざとなったらすぐにここを離れられるように。スザクがルルーシュの側を嘘をついてまで離れたのは、C.C.がルルーシュの側にいるならなんとかなるだろうと判断し、咲世子に加勢しようとしたため。
ルルーシュは侵入者とドローン、追跡してきた車。そしてスザクの態度と、スザクがナナリーを連れてこなかったことから、すべて理解していた。

『赤外線センサーの前では、君の隠密行動も意味を成さない。心配ない、敵はすぐここを離れるだろう。君も一度戻ってくれ』

咲世子は声には出さず、行動で示した。

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